灘集同人より9句

此ぞこの花菜明かりの記念館     飯野 深草

凧よ高く気持ち良ささうぢやないか  鎌田紀三男

囀を抱いて放ちて受令機百      阿部 竹子

母の瞳に万の花びら降りそそぐ    田中 順子

好き嫌いはっきり言う娘鷹女の忌   板坂 歩牛 

二人ならしばらく聞こう亀の鳴く    長野 保代

春の海一寸下がつて見てしまふ    富山ゆたか

涙法師の返上の時巣立鳥       野口 尚子

月山へ鳴らす指笛木の根明く     鈴木朱鷺女

(会員選評より

白藤や令和御朱印八幡宮      粋  狂子
 令和の幕開けに相応しく、華やいだ句と感じた。藤の白がこれからの可能性を表し、参拝者の幸せを祈る顔が浮んだ。(山澤和子)

夏蝶の抜け道あまた遊里跡     亀倉美知子
 この蝶は遊女のようである。抜け道は多いが、果たして遊女は蝶のように遊里から抜けられたのだろうか。想像の膨らむ句です。「蝶」でなく、「夏蝶」が動かない。(千乃里子)

ゆるキャラの役ひとつ終えソーダ水 霧野萬地郎
 「ゆるキャラ」とは愛すべき、緩さのことかと思います。今風の言葉を上手に使われて一句に仕立てられました。座を癒す役目を終えて、ほっと一息。「ソーダ水」は美味しかった事でしょう。(亀倉美知子)

レガッタ終ふ瀬田の夕照をしみなく 飯野 深草
 「瀬田の夕照」は近江八景の一つ。それを上手く一句に取り込んで現代のレガッタに生かした。下五の措辞はレースを終えた若者へのエールになっている。(稲吉豊)

日曜日五月雨滑るすべり台     千乃 里子
 雨の日曜の公園、雨水が流れ落ちる滑り台に注目していて視点が新しい。さみだれが滑るのを喜んでいるように感じられ、楽しい気分もある。(山田せつ子)

竹皮を脱ぎ散らかすや児のごとく    山下 遊児
 写生が適格であり、躍動感がある。地上に頭を出すと日に数十センチ伸びるのが竹の子であるが、二メートルも伸びるともはや筍ではなく、バラバラ皮を脱ぎ捨てる。子供の成長を見ている今年竹の表現が佳い。(鈴木基之)

継がれ来し四代の櫛みどりの夜   伊藤真理子
 四代に亘り継がれてきた櫛に、作者の感慨を思う。櫛は古来より呪力を持つと信じられた。黄楊の櫛の他に象牙、鼈甲、金、銀など豪華な材質のもある。「みどりの夜」の語感がさわやか。(飯野深草)

森若葉洩るるひかりは水溶性    富山ゆたか
 水溶性と表現した所に新鮮さがあり、新樹光が詩となって脳裡に飛び込んだ。(山下遊児)

動きだすからくり時計街薄暑    亀倉美知子
 ローテンブルクの市長さんのワイン飲みや、ミューヘン市役所のからくり時計が思い出される。待ちに待ったからくりが、動き出したときの景。薄暑の中、ヨーロッパの街を訪れた昔日が懐かしい。(佐野しげを)

骨を切り鱧は炙りか湯通しか    霧野萬地郎
 鱧料理は、淡白な味わいが日本酒によく合う和風割烹の華である。骨切りのリズミカルな音、炙りの香、お椀に開く真白な花、「食物の句はおいしそうに詠むべし」という建前が活かされている。(荒野桂子)

つばめの子土間開け放つ大藁屋   佐野しげを
 一昔前の日本の田舎暮らしが思い出されて、郷愁を覚えました。(井上玲子)

透明な音符が踊る雷雨かな     関  美晴
 上五中七の措辞が、詩の言葉としての美しさと、作者の感性の鋭さを余す所なく表出していて、「雷雨」の捉え方に新しさが生れた。激、鋭、冷、鬱等のイメージが強い季語に、新しい方向性を示唆してくれたと思う。(管山宏子)

第1回メール通信句会(令和元年5月)             富山ゆたか記 

<主宰特選3句>

ターバンもヒジャブも共に子供の日 佐野しげを

ターバンはイスラム教徒などの男性が用いるもの。一方のヒジャブはやはりイスラム教徒の女性が頭や身体を覆うもの。男女平等精神の句。〈子供の日〉の季語が的確である。

青梅や瞑想中の固さとも      荒野 桂子

青梅が瞑想するはずはないが、青梅に流れる静かな時間を感じられたのだ。主観の強い句であるが〈瞑想中の固さ〉と捉えて一つ抜けた。

直線に潜む優しさ水羊羹      山下 遊児

夏の代表的な和菓子の水羊羹。見た目も涼しげで口当りが良くみずみずしい。四角に切られていても柔らかさを感ずる。上五中七の措辞に納得する。


<主宰入選5句>

より高く潮満ち来る青葉季   管山 宏子   日曜日五月雨滑るすべり台    千乃 里子

世は事も無し田蛙のビブラート 稲吉  豊   森若葉洩るるひかりは水溶性   富山ゆたか

つばめの子土間開け放つ大藁屋  佐野しげを  


<作者一句(互選・得点順)>

己が身の水脈とも知らず残り鴨  飯野 深草  滝落ちて平野の水となりにけり  工藤 稲邨

動き出すからくり時計街薄暑   亀倉美知子  「枢機卿」と「教皇」の薔薇相対す  山田せつ子

白藤や令和御朱印八幡宮    粋  狂子   透明な音符の踊る雷雨かな    関  美晴

ゆるキャラの役ひとつ終えソーダ水 霧野萬地郎  夕映えの八つ橋に聞く行行子  井上 玲子

音立てて回廊をゆく夏帽子   田中 順子    継がれ来し四代の櫛みどりの夜  伊藤真理子

遠雷や待ち人来ずのジャズ喫茶 阿部千穂子    麦の秋映ゆる落暉や露天の湯   塚本 虚舟

卯の花や日ごと三たびの厨人  関根 曵月    旅の本五月の京都指栞      鈴木 基之

黄モッコウの黄が並の家際立たす 清島 俊雄  寝たきりの母に寄り添う団扇風  山澤 和子

旧友と大爆笑や薬降る      宮川 敏江

   撮影:霧野萬地郎(アラスカにて)

撮影:富山ゆたか

潮集同人から8句

幹ぽんと叩いて誉めて桜守      小泉 恭子

蛇穴を出て半身は夢の中       本郷 秀子

遠雷や水平線に段差あり       霧野萬地郎 

老樹みな前傾姿勢夜のさくら     太田  翠 

「令和」の日カサブランカの角芽立つ  中野 淑子

五月来るマリアの像の涙はも      禿河とし子

万葉の美し言の葉緑立つ       田邉 幸子

遠き帆を見てゐる島の藪椿      阿部千穂子 


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「波」誌2019年6月号の作品より

「吹き晴るる」より  高々と囲を張る蜘蛛や吹き晴るる       山田 貴世

波集から10句

春幾度波は変わらず打ち寄せる    菅井 亮太

窓の猫尾をもてあます日永かな    伊藤真理子  

逢ひし日も別れたる日も春ショール   鈴木喜美子

伏臥仰臥横臥累累落椿        中嶋  敦

二分三分今朝は八分や桜咲く     朝日  操 

卒業子思ひの丈の校歌かな      渡辺 洋子

際やかに辛夷空へと自己主張     菊野 柚子

競馬新聞地べた這ふなり花見頃    清島 俊雄

大楠や太古と同じ春の空       櫟木  健

桜より美少女多し角館        近藤  拓