潮集同人より9句
冬満月見終えて寝入るしじまかな 鈴木八洲彦
未来へ向け命真つ赤ぞ冬座敷 濱口たかし
寒風や言葉に勝る白い紙 中野 淑子
さりげなく力秘めたる返り花 田中美穂子
根張りよし枝振りもよし欅枯る 伊藤美也子
インフラの破壊に凍る国かなし 阿部千恵子
「浪裏」の富士を沈めて冬落暉 富山ゆたか
牡丹焚くいのちを青く昇華させ 鎌田紀三男
霜の花ひとさし指の触れて消ゆ 鈴木朱鷺女
灘集同人より12句
落葉掃く婆より大き竹箒 岸 健
日に風に結び目ゆるむ干大根 長野 保代
日向ぼこ三時のままの花時計 酒向 昭
着ぶくれて棘ある言葉聞き流す 畠山 久江
芒枯れ尽くして風の癖あらは 中嶋 敦
百稈の黙す嵯峨野や冬の京 井上美沙子
すぐ前のすこし着ぶくれ影法師 新坂 雅子
実朝の海や泪や銀杏降る 木嶋 玲子
またも押す追焚きボタン外は雪 鴉田 愛子
過ぎてから気づく幸せ竜の玉 脇 美代子
夕さりの風を梳きゆく崩れ簗 武田志摩子
愚痴りつつ取る猫の背の牛膝 白倉 靖子
波集より12句
山よりの風の分厚さ野番過ぐ 高谷南海絵
銀杏散る表参道別れしな 峰村 拓三
タグ付の越前蟹や目の濡れて 蒲谷トシ子
世帯主息子へ譲り日向ぼこ 川島 隆
沖を行くコンテナ船や冬落暉 柳川 雅子
おしどりの程よき距離の水尾なるや 杉下 赫子
霜柱一歩一歩に銀の音 渡辺 洋子
屋根の無き大仏凛と冬青空 相賀むさん
立ち話二分で済ます師走かな 石田 啓子
身の内に過ぎゆく時間はや歳晩 加藤 浩子
何事もなきよう願う師走かな 吉川 知子
寒蝿やうつろな瞳の小宇宙 小鳥遊 彬
撮影:霧野萬地郎:(香港にて)
「波」誌2023年2月号の作品より
「春時雨」より 地球という大きな船や春立てり 山田 貴世
「立春」より 薄氷や愛の言葉の軋む音 管山 宏子
撮影:富山ゆたか