灘集同人より10句

一瞬で人を危める屋根しずり      板坂 歩牛

未曾有なる世ぞていねいに煤払ふ   亀倉美知子

化野のすだまも鬼女も舞い凍る     井上美沙子

沈黙てふ声あり島に絵踏みの碑     緒方 格子

野焼きの火神話の天を焦しをり     塚本 虚舟 

新走り判つたやうな顔で飲む     新坂 雅子

頭上より卒寿はげめと初鴉        外岡六太郎

軒氷柱二日の日矢を宿しをり      伊藤 美保

ひとり身のオムレツとろり霜夜かな   野口 尚子

裏山は街の衝立冬ぬくし        西室  登

「波」誌2021年3月号の作品より

撮影:富山ゆたか

波集から10句

いつの世も悲しき疫病一葉忌      塚越やす子

煮凝りやかの夜は父も母も居て      布施なみ子  

堂々と老けこんでいる四日かな      飯塚けいじ

田の神の退りて風の棲む冬田       菊地ゆき子

コロナには負けじと二個の寒卵      渡邊 初子 

「はやぶさ」の快挙で晴らす師走憂さ   峰村 拓三 

一病を大事に生きて葛湯吹く       村田 和子

冬菫この世忘れぬために咲く       山田ツトム 

新しき吾を求めて日記買う        齋藤まり江


息白し土工の肩のリズムめく       伊藤みや子

      

潮集同人から9句

盆梅や一輪づつの小さき幸       管山 宏子  

亡命を請う入国者春きざす       霧野萬地郎

数をかぞへて鳰の浮上を待つてをり   濱口たかし

凍滝に細き一水意を通す        吉村春風子 

小面の目元清しき今朝の春       久保田葵美

右府の忌や沖の小島の烏帽子岩     由田 欣一

晴れ晴れと牛の太声初山河       稲吉  豊

思ひきり顔の体操初鏡         石垣みち代

その返事ちよつと薄情シクラメン    伊藤美也子 

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「水温む」より      水温む小屋の鶏放たれて        山田 貴世

リパキとラジオ  撮影:霧野萬地郎