波集から10句
炎天下倦まぬ土工の力瘤 中嶋 敦
千年の時をちりばめ滝の糸 酒向 昭
和地と云ふ川の味する鮎の郷 本城 清
野馬追や終へて蹄の音ばかり 當摩さとこ
独り夜の天地響動もすはたた神 村山 絢子
深山の精気満たして神の滝 櫟木 健
息入れて精霊となるシャボン玉 山澤 和子
残照を引きとめ百日紅の空 矢口 敬子
一駅を歩き一駅分の汗 那須 美保
平和なり大海原にデイゴ散り 小鳥遊 彬
灘集同人より9句
西日濃し刷毛を咥へし大経師 野口 尚子
タブ引いてすうと缶切る不死男の忌 阿部 竹子
山峡の闇深くして河鹿笛 長澤 義雄
一ミリを正す杭打ち炎天下 千乃 里子
青林檎っむいて淋しさはがしゆく 筒井 洋子
梔子のしみじみ白し世の荒び 佐野しげを
ゴッホとは違う向日葵生家かな 鈴木 基之
捕らはれの蝲蛄夕日掻き分けて 永井かほる
案内は銃持つマタギ安の滝 富山ゆたか
「波」誌2020年10月号の作品より
撮影:霧野萬地郎(タスマニア・ロスの村にて)
潮集同人から8句
夕焼けを背負ひし子等とすれ違ふ 本郷 秀子
古酒酌んでウイズコロナの自棄つぱち 管山 宏子
後輩の部活報告風青し 原口 海人
七変化最も美しき時とまれ 中野 淑子
月高し神楽坂まだ宵の口 禿河とし子
梅雨寒しテレワーカーの孤独かな 田邉 幸子
ちちと啼きははと慕わぬ守宮かな 加茂 一行
珈琲も風も光も今朝の秋 阿部千穂子
「秋惜しむ」より 目はあれど何も見てなき捨案山子 山田 貴世
撮影:富山ゆたか (横浜・日本大通りにて)