6日目(3月29日)

早朝のカラコルム・ヒマラヤ連峰の夜明けを見るべく、未明に四輪駆動の専用車で標高2800mのドゥイカル高地の見晴らしポイントへ向かう。五台連ねて険しい山道を、ヘッドライトを上下左右に激しく揺らしながら急な坂道を登る。前の車と我々の乗った車の間に落石があり、ヒヤリとすることもあった。

暁闇から次第に明らむ峰々、ラカボシ(7788m)、スパンティーク(7027m)、ディラン(7253m)、そして、後ろには一本立ちのレディフィンガー(5965m)が展望できた。眼下には一昨日と昨日たずねたフンザの村々が一望できる。太陽の出る山に少し雲があったので、日の出の鋭さは欠けたが、ドラバー達が用意してくれたチャイで温まりながら、楽しい時間を過ごせた。

カラコルム・ヒマラヤ連峰の日の出    ドライバーたちがチャイを用意した

宿に戻って朝食すませ、三連泊も終わったので、屋上で改めて四囲の山々を眺め尽す。旅鞄を部屋の外に出して、杏や桑の木々が植えられている村の水路を散策した。冠雪のカラコルム・ヒマラヤ連峰と澄み切った青空、真直ぐに伸びるポプラの木と杏の花がとても美しい。小さな畑では草の緑が色を添える。たまに行き交う地元の人達は穏やかで、とても平和な気分にさせらる。桃源郷と云われる意味が良く分かる。

素晴らしい村の水路散策↑・↓

暁光に燦たる峰やチャイぬくし     白銀の尾根で地球の屋根を葺く 

  万峰の競う屹立雪解光         白銀の嶺つかみたる春の雲 

剪定の枝で籠編む老爺かな       芽ポプラに沿いて少しの曲り道

車に戻り、いよいよフンザを離れる。やってきたマイクロバスでカラコルム・ハイウェイを一気に南下する。途中、昼食は名峰ラカポシ(7788m)の近くの店で摂る。この辺りは眺めがとても良いので、期待される観光客が楽しめるようにトレッキングの路を作っていた。
 一軒だけの土産屋にはフンザ川で採取したルビー、雲母、マラカイト、ラピスラズリなどの原石が売られている。大理石に挟まったルビーの原石は1000円以下だったと思う。その土産屋に見慣れぬ旗が掲げてある。「何だ?」と店の主らしき男に聞けば、「良く聴いてくれた。シーア派の旗で、この辺りはこれがシンボルなのだ。」と近くでチャイを楽しんでいる男たちに私を連れて行って、皆と握手・抱擁をさせられた。シーア派はイランに多いと聞いていたが、ここにも少数派として誇り高く生きているのだろう。

ラカポシ峰(7788m)を望むカフェ↑     シーア派の旗↑      土産屋にて、右下がルビーの原石↑

更に南下して、かつてのシルクロードが川の対岸をジグザグとはっきり見える場所で写真撮影のために停車。その昔はここでインダスの支流、フンザ川を渡ったと云う。ロバがやっと通れる幅を1958-60年にかけてジープが通れる様に拡幅されたが、70年代のKKH(カラコルム・ハイウェイ)がつくられてからは使われなくなった。しかしながら、「ラカポシ峰(7788m)を望む素晴らしい景観と、この歴史を残そうと、アガカーン文化サービス、ノルウェー大使館、そして、ナガールとフンザの人達の協力のもと、2004年にこの旧シルクロードは遺跡として修復された」と表示板が立っている。

次の停車は、このカラコルム・ハイウェイの建設で犠牲となったパキスタン人の慰霊墓地。その多くは建設中の地滑りや転落事故で死亡した。黄色の掘削機を慰霊塔としているのが印象的だ。中国側にも多くの犠牲者が出たが、別の場所にある。中国風の廟が置かれているのが、バスの窓から少しだけ見えた。双方で約3000人の犠牲者が出たと云う。

そうこうしているうちに、ギルギッドに到着した。ギルギッドはパキスタン北部のギルギット・バルティスタン州の州都で、カラコルム山脈に囲まれた北方地域の中心都市である。

時間があるので、バザールを少し歩こうと、ガイドのB氏が我々を引き連れて繁華街に入った。先ず驚いたのは、警官がフォークリフトを使って駐車違反の車を高々と持ち上げて、車道より50cm程高い歩道へ運こび上げている場面を目撃した。これでは車道に戻れないので、違反者は恥をかきながら、罰金を払うと云う。手荒いやり方なのだ。

 町は男ばかりで、フンザ地域とは違う。イスラムでも原理主義の影響が強いのだろうか?バザールの路地には野菜や果物をリヤカーに山と積んで売られている。鶏肉の店前には、生きた鶏と、殺したばかりの鶏を吊るして売っている。店の中では毛をむしっている。肉は新鮮なものしか許されないのだ。山羊や羊や牛は生きたまま、少し離れた場所で売られている。勿論、豚はいない。売られている種袋は殆どが中国からのもので、茄子、オクラ、カブ、トマト、キュウリなどで、この町の食材が窺える。丁度、祈りを終えてモスクから出てくる人たちと交錯しながら、駐車違反を避けてぐるぐると町を廻って来たマイクロバスが一瞬の停車で、全員急いで乗り込んで、バザールを去った。

ここギルギットは2013年に外国人旅行者がISに襲撃され、外国人9名が殺害される事件が発生した。その後、パキスタン・タリバン運動(TTP)など複数の過激派組織がこの事件の犯行声明を出している。声明の中で、今後も外国人を襲撃対象とすると述べており、同様の事件の発生が懸念されることから、ホテルは高い石壁に囲まれ、出入りは厳重にチェックされる。

ホテルの横には陸軍駐屯地があり、軍関連の街がその区画の中で出来上がっているらしい。学校や病院なども整備されているらしい。軍はパキスタン人の男子にとっては憧れの仕事なのだ。

ホテルは今回の旅で最高級のホテルで人心地をついた。

シーア派の旗高々と雪解光    掘削機立てて墓標や春愁  

峡ぬくしジグザグ上る絹の道   辺境と秘境 兵士と花杏

旧シルクロード              パキスタン人の慰霊塔

↑駐車禁止の処理  ↑男ばかりのバザール     ↑新鮮な鶏肉 
←軍への呼び掛け

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