翌14日の朝はエトナ山へ上る。欧州最大の活火山で標高3350mだが、説明では山としては4500mで山裾は水面下にあるらしい。ツアーバスは標高1923mまで行き、そこで過去の火口やお釜を歩く。過去の噴火によるクレーターが230もあり、最近では2001年から2002年にかけて三回も爆発している。殆どは熔岩色のお釜だが、古いお釜には草萌えも見える。

そこから更にロープウェーで2500mまで上れば、熔岩の地表の大半は雪渓に覆われている。強風で寒い。生憎の曇で下界の様子は雲の合間から少し覗くだけ。更に頂上近くまで登山専用車があったが、見晴らしも利かないので行くのは止めた。ガイドの待つ1923m地点へ下り、余り時間を、飾り立てた車売りの蜂蜜の試食などで過ごす。山を下り昼食を摂って、タオルミーナへ戻る頃から天気は晴れてくる。

<エトナ山標高2500m(上)と1923m(下)地点と蜂蜜売り>

ゲーテは5月4日にカタニアから騾馬でエトナ山麓まで来て、この山に登る。「この山は、全部が赤い火山質の砂礫と灰と石とでできている。火口を一周するのには普段なら造作ないことだが、朝の風が嵐のように猛烈に吹きつけて、一歩一歩足もとが危なくなるので、それは出来ない相談であった。ちょっとでも進もうと思えば、外套を脱がねばならず、帽子も今にも火口の中に吹きとばされ、私自身のつづいてその後から吹き落とされそうになる。そこで身を安全にしてまわりの景色を眺めるために腰を下ろして見たが、こういう姿でも依然として危なっかしい。眼下に遠く近く海岸に至るまでうち続く美しい陸地を越えて、東の方から物凄い烈風が吹きつけてくるのだ。メッセーナからシラクーサにいたる紆余曲折の岸辺の眺めは全く遮るもののなく、もしくは、岸辺にある岩にわずかに遮られるのみで、すべては一望の下に展開している。」

「タオルミーナを見ずして死ぬな」、ナポリ以上に風光明媚なイオニア海とエトナ山を一望できるシチリア代表の観光かつ保養地。

最大の見所は紀元前3世紀のヘレニズム時代に建設されたと考えられるギリシャ劇場である。本土から遠く離れたギリシャの植民地にかくも高い文明を起こし遺したことに驚く。客席からは舞台とその先にエトナ山の噴煙が見えたのだろう。この日の山頂はわずかな雲と噴煙で隠れていたが、晴れた日に古代ギリシャ人の気は多いに高揚したと思う。

ここは山頂を削って造った。劇場の直径は109mで5400の観客席と35mの舞台を有する。どれほどの石を運び出したのだろう。ローマ時代には改築されて剣闘士や猛獣の戦う舞台にもなった。

ギリシャ劇場を堪能して、タオルミーナのメインストリートを散策する。中世の教会と家並みが石畳の道を囲んでいる。途中の広場には大道楽師がカンツォーネを奏で、それに合わせる陽気な観光客もいて楽しい。

映画「グラン・ブルー」のロケで有名なイソラ・ベッラにも立ち寄って宿に戻った。

百年を経て草萌えの火口かな

のどけしや教会広場のカンツォーネ

蝶々やタオルミーナの塩探す


ゲーテは5月6日にギリシャ劇場を訪ねた。「その昔見物人の坐っていた一番高い席に腰をおろしてみると、劇場の見物人として、これほどの景色を眼前に眺めた者は外にあるものではない、と私は認めなければならない。(中略)見渡せばエトナ山脈の山背は全部眼界におさまり、左方にはカタニア、否シラクーサまでも伸びている海岸線が見え、この広大渺茫たる一幅の絵に尽きるところに、煙を吐くエトナの巨姿が見えるが、温和な大気がこの山の実際よりも遠くかつ和らげてみせるので、その姿は恐ろしくない」と記している。

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劇場や神の座人の座トカゲの座

<↑タオルミーナのギリシャ劇場から曇ったエトナ山(逆光)と↓背後のイオリア海>

<タオルミーナの広場>