3日目(3月23日)

 この天文台からの観測で恒星時一年は「365日6時間10分8秒」と計測し、現在の精密機器で測られた「365日6時間9分9・6秒」との誤差は1分以内の正確さで割り出した。望遠鏡の無かった時代での精度の高さに驚かされる。先進的な彼の天文表はキリスト教社会にも伝えられて評価を得ると共に、「花咲けるサマルカンド」と讃えられた。しかし、科学より宗教を優先する当時のイスラム指導者たちの反発を買い、彼は騙された息子によって殺され、斬首された。そして、天文台は壊され埋められた。(これは地動説宗教裁判にかけられたでガリレオの100年も前の事だ)

雨は小降りになってきた。最初に訪ねたのは、かつてイスラム世界で最大の規模だったビビハニム・モスク。
 1399年にインド遠征から凱旋したチムールが多くの職人と労働者、それに95頭の象を従事させ、わずか5年で完成させた。それでもチムールは気に入らず建設責任者を処刑したと云う。
 他にも、ビビハニム(妃の意味)に絡んでの話がある。妃が建設中に美男の建築家と恋に落ちた。凱旋帰国したチムールが頬のキス跡を見つけ浮気がバレ、建築家が処刑され、妃はミナレット(塔)から落とされたとの言い伝えもある。その後、巨大な急造モスクは間もなく崩れ始めたと云う。今は往時の面影が戻りつつ改修途中の状況。
 庭に大きな石のラウヒ(書見台)がある。後日、タシケントで見る最古の鹿皮のコーランを載せるために、孫王のウルグ・ベクがこのモスクへ寄進した。

戦跡に見えぬ戦禍や草萌る

剥落の壁に栄華の春の夢      草萌えやチンギスハンの抜けし丘

 次にアフラシャブ博物館を訪ねる。 蒙古によって壊滅させられるまで栄えた旧サマルカンドのあったアフラシャブ丘に博物館が建てられて、ここからの出土品を展示している。
 
 7世紀の領主の宮殿から発見された壁画が最大の見ものだ。宮殿の部屋を模して4面に壁画を展示再現されている。ゾグド人の行進や狩り、また、中国や朝鮮人の姿もあり、シルクロード交易を彷彿とさせられる。

天文台がどこにあるかは謎に包まれていたが、1908年にロシアの考古学者によって発掘され、その存在が明らかになった。現在は円い天文台の基礎と六分儀の地下部分のみが残っている。当時、六分儀は高さ40m(その内11mが地下)、長さ63m、幅2mの巨大なもので、高さ30m以上の研究棟で囲まれていた。

春の日を地下へまあるく六分儀

遠足の子らと思案の天文表

ウルグ・ベク天文台跡とその内部

聖職者による祈り

姫たちの廟へ清めの春の雨

イスラムの春めくナンの花模様        バザールの女はだれも春ショール

次に向ったシャーヒ・ジンダ廟群でも雨が降り続けている。
 ここはチムールの関係者の墓がいくつも並び立つサマルカンドの聖地なのだ。雨にも拘わらず多くの人が訪れている。ウルグ・ベクの建てた門を入って石段を数えながら登る。帰りも数えながら下る。同じ数なら天国へ行けるそうだ。31だったかな〜。

石段を登り切ると青タイルで装飾された、15世紀頃までの11の墓廟が石通りに並び、イスラム独特のタイル模様の壁の横を歩く。チムールの親族や乳母など女性の廟が多い。

奥の方に最も古い11世紀の建物、クサン・イブン・アッバース廟で聖職者による祈りが行われて、我々も祈祷を受けた。清々しい声がドーム内に響いて心地よい。門の近くでは家族そろった集いが行われ、コーランが唱えられていた。

シャーヒ・ジンダ廟群にて

 午後はウルグ・ベク天文台跡へ行く。チムールの孫で王としよりも学者として活躍したウルグ・ベクが1429年に建造された天文台の跡。

ナンの売り場

博物館の奥から旧サマルカンドがあったアフラシャブの丘を歩く。蒙古軍に破壊されるまでは、鉛の水道管が引かれ、石で舗装された賑やかな町だったが、雨に濡れた鮮かな草若葉が覆っているだけだ。

他にも、アレキサンダー大王時代のコインや鳥葬の骨壷(オスワリ)やゾロアスター教の祭壇など興味深い展示がされている。
 
博物館は韓国の援助で建てられたと真新しい碑があった。

アフラシャブ博物館にて

旧サマルカンドがあったアフラシャブの丘

家庭料理ブロフ

 昼食は個人の邸宅でサマルカンドの典型的な家庭料理ブロフを味わう。米に牛肉と人参を盛り付けて口にあった。食事を一層美味くする現地のビールとワインも飲む。20人も入るサイズの部屋も備えた大きな私邸だ。

 食事後にバスが家を離れる時には家族4人で手を振って見送ってくれた。まだ雨が続いている。砂漠地だから晴れが多いと思っていたが、3月は最も雨量が多いのだ。

蜂蜜売り場

ビビハニム・モスクと内庭の書見台

春雨や背丈を越える書見台

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ビビハニ・モスクの隣のバザールへ足を進める。豊富な葱や赤カブなど新鮮野菜、ナッツ、米、香辛料などが広いバザールに整然と売られている。初めて青い大根を見た。小型にした冬瓜の形だ。また、季節外れな筈のザクロも盛られていた。ザクロをモチーフにした装飾はモスクの入口の天井に多い。

サマルカンド名物のナンもいろいろと装飾されて売場に色を添えている。

二重内陸国なのか、魚売場は見ない。売場ではいろいろと試食させてくれる。丸く捏ねられたチーズ、胡桃を入れた杏の果肉、採れたばかりの蜂蜜、それにカシューナッツを始め、様々な豆類などそれぞれに美味しかった。