次に、マウント・クック空港からヘリ飛行(60分)に乗る。
 天候を見ているのか一時間程遅れて12時近くになってようやく離陸した。サンディエゴからの恋人二人と一緒だ。ヘリはフッカー氷河からマウント・クックへ向かい、やがてそのNZ最高峰を旋回する。わずかな雲が残っていたが、角度によっては鋭い山頂がはっきり見える。氷河の上を越えて、やがて、ヘリはタズマン氷河へ着地した。
 一面に氷河を覆った新雪の上に降りれば、目もくらむ光量で、急いでサングラスを借りた。足はズブッ、ズブッと50センチ程もぐり、よろけながら歩く。青白い氷河の壁に新雪が積り、正に白銀の世界だ。ヘリは回転を止めれば、荘厳なまでの白い静寂が辺りを包む。

8日目:1028日<マウント・クック>

 この日の計画は11時のヘリ飛行の予約以外は自由時間を組んでいる。先ずはその前に一時間コースのケア・ポイントの展望台へ歩く。途中、あちこちの山から、朝日に当たって弛んだ雪が雪崩となって落ちる音が聞こえる。雪崩は数分間も続く事がある。
 なだらかな道からやや急な道を登れば展望台だ。正面のマウント・クックの前を雲が流れて、見えたり隠れたりの状況だ。展望台で一緒になった女性はエクアドルからこの山の勇姿を見に来たと話していた。目の前にはミューラー氷河の最終端と氷河湖が、氷河が削り出した土砂と併せて、美醜が際立つ。

春日入る青き氷河の亀裂かな

(マウント・クックをマウリ語ではアオラキ)

ヘリ旋回アオラキ春を切りたてり

 サンディエゴの恋人たちは遠くへ走って雪玉を投げ合ったり、仰向けに倒れたりして、はしゃぎ、やがて、パイロットを仲介に、婚約指輪を交したようだ。
 再び、飛びあがり、また、急降下して、氷河の裂け目に急接近する。10メートル程の氷河の櫛目がすぐそこに立っている。懸垂氷河が急斜面に架かっている。やがてトルコ石色した氷河湖やプカキ湖への流れの上を飛んで空港に戻った。フィヨルドの時と同様に、満足度の高いフライトだった。

道端のマウント・クック・リリー

写真:上から犠牲者の追悼碑、吊り橋の附近、正面にアオラキ

 大いにマウント・クックを満喫した一日だった。夕暮の連山を見ながら食事して、部屋から更に夕焼けの山頂の色の移ろいを鑑賞した。月光に当たる蒼然としたマウント・クックも素晴しい。雲はすっかり消えた。

吊り橋や巌を滾る雪解川

アオラキの小花を愛でて山遊び

 午後はフッカー渓谷を歩く。10分程歩くと小高い場所に三角錐に石を積み上げた記念塔がある。アオラキ/マウント・クック国立公園での犠牲者の追悼碑だ。丁度、アオラキ(マウント・クックのマオリ語で雲を突き抜ける山)を背に、氷河湖のプカキ湖を見る位置に建っている。

 そこから、一時間程歩く内に、氷河湖からの流れに架かる橋を二つ渡った。この辺りで、夕暮れが近くなったので、引き返した。今少しで残念だったが、日が落ちては山道を歩く事はできない。

写真:上から
・午前中見たミュ-ラー氷河湖
・マウントクック頂上
・タズマン氷河へ着地
・氷河の恋人たち
・上から見る縦割りの氷河

春光や氷河の黙は太古より

雪眼鏡かけ大氷河俯瞰せり

雪を投げ雪食むも良し氷河上

春雪の薄さ氷河の厚さかな

 ヘリ飛行の他に小型機による遊覧飛行がある。1955年に航空史に残る雪上着陸がこの地で成し遂げられた。氷河に着陸出来るライセンスを持った会社はNZで一つしかない。その会社の小型機遊覧も氷河にて着陸するらしい。これも魅力的だ。

上から:ケア・ポイントへの道・雪崩が見える山・ミューラー氷河湖

音ありて指さす方の雪崩かな

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山道に雪崩谺すたて続け

氷河湖の縁にも春の風来たり