「波」誌・2006年3月号掲載: <俳句誌の鑑賞>

「檪」一月号

阪本謙二主宰で平成六年、松山を拠点に発刊。

昨秋の「檪まつり」特集号で、裏表紙に参加者全員の写真が載っている。背景の建物に見覚えがある。会場は一度訪ねた事のある「にぎたつ会館」。愛媛松山だけあって、俳句大会の多い会館なのだろう。

主宰の「風月集」十七句から、屋久島へのクルーズを詠った「あらくれの樹齢三千冬の雨」「人二万鹿二万冬ぬくき島」は数字を配しての具体性を読者にイメージさせる。「船のディナーや止椀はなめこ汁」など旅の楽しさが伝わってくる。

この「檪まつり」には宇多喜代子氏もゲストとして招かれて、「木の家の真秋や息を整えよ」「雁渡るまにまに太る和蝋燭」「秋の風疊を低く吹き抜ける」など訪問時の十句が載っている。松山や内子の印象が、熟達した言葉遣いで、詠われている。「烏瓜阪本先生を呼びにゆく」が挨拶句なのだろう。

「穀斗集」から、三木照恵氏の「置き去りの競馬新聞穂絮とぶ」、森光義子氏の「耳澄ます弓道場に昼の虫」、櫛部天思氏の「銀漢の尾の石柱へ垂れにけり」など好きな写生句。

連載のほんの一片だが、前園実知雄氏の中国歴史紀行に注目した。今月は友人と二人して三峡下りの途中のエッセイ。バックパッカー的な体験ロマンがある。時代背景は「人民警察」の措辞から、八十年代かも知れない。句は無いが楽しい。

「紺」一月号

桑原まさ子主宰。栃木を拠点とし、本年は創刊三十周年で気合を感じる。新年で表紙も一新された由、日光連山の男体山の遠景写真が清々しい。

主宰の「冬青草」の八句から「鳥渡るひかりのなかを水こぼれ」「結露なめらか点睛の返り花」などの刹那を捉えた句に詩的さを感じた。丁寧な観察を詩へ詠み込みが光る。

今年度「紺賞」受賞者の石原喜城氏の作品抄から「秋雲の継目つぎめにある日差し」「時折り腰直し棚田の蝗捕り」などベテランの目線が光る。

同じく須藤ふく子氏の「結局は真ん中にあり芋の露」、伏木ケイ氏の「縄焚いて空の濁らぬ菊畑」など、見逃しそうな事象を豊かな詩情ある句にされている。

主宰薦の「白韻抄」からは兵頭時夫氏の「芒原青い女の現るる」、池田きよ氏の「モーツアルト浮遊してゐる芒原」など少しシュールな句や、高橋志津子氏の「透明になる鹿の瞳に見詰められ」、能勢昌子氏の「火の山へ花野の道を選びけり」など、視点の豊かさの中に、ローカルな栃木の表情がある。

受贈誌のひろばでは「波」から倉橋羊村主宰の「千手観音裾より湧ける虫の闇」が載っている。

「壺」一月号

金箱戈止夫主宰、北海道が拠点。

主宰作品「秋耕」から「嘴挙げて駒ケ岳(こま)や紅葉の渦の上」「紅葉なす百島傾け舟めぐる」。大きな函館大沼の写生に力強さを加えた好きな句である。
主宰の二葉庵雑記で加藤周一氏の言を得ながら、新聞掲載句の一般受けばかりを目指す迎合的選句への批評がされている。解り易いだけの単なる花鳥風月では文学としての存続はないとしている。

素玄集から、能登裕峰氏の「紅葉炎ゆ世界遺産の太き文字」、川名律子氏の「実ハマ瑰潰え地球に恙あり」など社会性のある句もある。

雁道集から、梶鴻風氏の「えみし語の地名また消え柳葉魚干す」、狩眼集から、大橋古城氏の「荒海の炎か秋刀魚青く燃ゆ」など北海道ならではの句が印象的。

加藤かな文氏の「俳句をめぐる私の偏見」。氏の作句信条は「固有名詞・海外詠・弔句・前書き」を認めない。「ただ事をただ言で詠む」を俳句としている。色々と意見があることは俳句の活性になる。しかし、閉鎖すぎるのは問題だ。掲題からもこれは偏った意見と断りを入れているが・・

「朱欒」一月号

脇本星浪主宰、鹿児島を拠点としている。

鹿児島県は私にとっては未踏の地で、ネットの地図検索を見ながら、「朱欒」を鑑賞している。句誌で旅を楽しむ感じだ。

主宰作品「愚人伝」二十七句から「狐啼き幼児かたこと母国語ぞ」「薩摩汁髭濃き順に上座より」「偉人伝愚人伝そして寒卵」など薩摩隼人を彷彿とさせる目線が新鮮に感じた。

南嶽集から梯寛氏の「掌に橙重し鎮国寺」、入部すみ子氏の「記紀の野に遊ぶひかりははたはたか」が面白い。天孫が降りたのも空海が寺を創建したもの、最初はこの地だったのだ。

南開集から宮脇弘氏の「稲滓火に染まる棚田や奥薩摩」、宗像隆氏の「霧島の高嶺なだらか石蕗差けり」、久保正俊氏の「法師蝉とまる西郷さんの肩」など薩摩を誇らしげに詠う。

南窓集から山下良子氏の「火の山の遠くて淡し冬の雨」、峯山藤夫氏の「天高し薩摩切子をすかし見る」など薩摩での旅情すら感じ、いつか彼の地を訪問したい気にさせる。

南光集には就学前から小五の子供たちの句が並んでいる。それらに主宰が話しかける様にコメントを付けている。就学前の山根広之君の「さむくてもじてんしゃにのるこうえんで」など。継続して若い芽を育んで頂きたい。


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