「波」誌・2006年2月号掲載: <俳句誌の鑑賞>


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「天爲」十二月号 
主宰は有馬朗人、師系は山口青邨。

主宰の「黄山遊吟」として十五句から「蓮の実や夕日をひとつづつ弾く」「玲瓏と帰燕の空の朝日かな」「楚歌の地へ稲藁の火の四方より」など悠久の中国の歴史と大地が詠われている。

有馬ひろこ氏の「死を覗く」は本人の大病の中での十句が凄い。「ちらと死を覗くや花野真白なり」「寒くなく死線はふはつと白かつた」などのぎりぎりの意識から「温顔の医博の眼マスクの上」で読者は安堵する。命の重さからの迫力。

主宰推薦句から石川克子氏の「灯の壁の青蔦スイスの料理店」、田尻明子氏の「モンドリアンの白もんどりうつて秋」、西野編人氏の「長江の釣瓶落しや牛追う子」など楽しい句が多い。

「幻の人を求めて」として、主宰の特別作品五十句がある。内三十二句が海外の句で、世界への俳句での扉が大きく開かれている。中国の「古楼より霾る街へ打つ太鼓」、パリーの「十字架の胸の創より蔦芽吹く」、イタリアの「ヴェネチアの切子が透かす青き海」など。国内でも「四万十川の杖突き蝦や徒遍路」など旅の句が多い。

「紺」十二月号 
主宰は桑原まさ子、栃木県や北関東の会員が多い。
「波」と同様に来年は創刊三十周年を迎える。

主宰の「永楽銭」の八句から「放念や寒露の水をのみこばす」「梟や永楽銭の錆深く」などの心象的な句が機微細やかなこの俳句誌を表しているように思える。

表紙裏の今月の秀句(高橋志津子抄出)から正木ゆう子氏の「冬眠の蛇身ときをり鱗立つ」や仁平勝氏の「寒林のどこからも狙われてゐる」など若々しい前衛的な好きな句。

主宰薦の「白韻抄」からは大町道氏の「刈田はや鷺は首より歩みけり」、長谷川理雅氏の「噴煙の空傾けて鳥渡る」などの写景句や、下村克己氏の「沈みゆく豆腐ゆらりと秋澄めり」、早乙女千代氏の「金木犀中年女のにほひかな」など一瞬の情景を掬い取った句などさまざまな顔を見せてくれる。

受贈誌のひろばでは「波」から倉橋羊村主宰の「脇正面に夜の蝉鳴く薪能」と小路寧子さんの「羽抜鶏さうではないか老北斎」が載っている。

「壺」十二月号 
主宰は金箱戈止夫、師系は石田波郷 北海道の会員、同人が多いが支部は東京、福岡、愛媛にもある。四十七年目の俳句誌。

主宰作品「一片の鏃」から「今日は良き顔の色つや薄紅葉」「新酒より今は新米身に甘き」「一片の鏃身に欲し大枯野」など柔らかい表現で人間を詠まれる。

素玄集から小野藤花氏の「蟻ン子の台風来れば誰か死ぬ」、小野与志恵氏の「秋暑し身につけてゐるパスポート」、伊藤杜夫氏の「羊雲中国人の嫁が来る」などに新鮮味を感じた。

壺中天からは馬庭克己氏の「雀らよ知るや人には秋思あり」からは、そのユーモアが気に入った。

雁道集から井上千代美氏の「苦瓜を食べてこの先白紙なり」、阿部梅子氏の「菊人形まだ五部咲の袖の色」、礒江波響氏の「霧深し止つて動く氷河かな」、菅原寿美子氏の「どうしても斜なるこころ梨を剥く」などベテラン俳句と思われる。

壺中賞の山田ひとみ氏の「冬の啄木鳥」の二十句が紹介されている。利尻の動物を詠んだ「あたたかや栗鼠に右利き左利き」「あざらしの臍に窪みや風光る」など行き届いた観察が印象に残る。

「青海波」十二月号
主宰は斉藤梅子、平成二年創刊で発行所は徳島市。阿波踊りの句を期待したが、季節が過ぎていた。

主宰の「十三夜」から「月光に椨の木河童いでよかし」「田の中に河童を祀り十三夜」「月昇る河童の皿を見たしとも」など、徳島の河童祭の様子が十六句並んでユニークな行事が活写されている。

主宰推薦の青秀抄から瀬戸内敬舟氏の「生国は眉山でござる小鳥来る」、濱田康子氏の「小鳥来る熱き紅茶のほしき朝」、土方定子氏の「運動会島を向うに手をたたく」など明るく、生活に根付いた句が選ばれている。

句日記を二人の方が書かれている。毎日一句を続ける熱心さが伝わる。池田賀代子氏の十月十四日「異常なし医師の宣言天高し」、皆谷露子氏の十月十一日は「秋刀魚焼き今日も一人の夕餉かな」。境涯句として自分のメリハリになるだろう。

十二月の句会案内が最後にある。二十一の例会が徳島県内で開催されている。前月のそれぞれの句会報が作品と共に載っている。徳島県で活発な活動をされているのがわかる。

その他の会員の句にも旅の句が見られる。高田恭子氏の「只今休業ラマダンの大飯店」はどこの回教国なのか想像が膨らむ。

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