所属している俳句誌「波」では、受贈誌展望という二ページが用意されている。倉橋羊村主宰がさまざまな他の結社より受贈された俳誌の何冊かを毎月同人の一人が一年を通して感想を述べるのである。2006年は私にその順番が廻ってきた。「波」誌に載せる原稿を、私のホームページにも掲載を許してもらった。タイトルは<俳句誌の鑑賞>である。


明けましておめでとうございます。今年の俳句誌の鑑賞と紹介は私の番となりました。宜しくお願いいたします。

「波」誌・2006年1月号掲載: <俳句誌の鑑賞>

「鴫」十一月号 主宰は伊藤白潮、師系は水原秋櫻子と田中午次郎そして「人間の総量としての俳句を」を目指す。

中表紙には主宰の「聖家族教会(サグラダファミリア)のクレーンが吊る冬日」が紹介されている。バルセロナの数世紀をかけて工事中の、あの茸に似た不気味な建物を思い出す。そんな奇怪な雰囲気が更に伝わる。

主宰の近詠十八句「祝辞メモ」から「運動会日和体調不良なり」・「くらやみに話す国勢調査員」など日常的な句と「鶏頭の種採る死者の誕生日」・「穴惑ひならずペットの果といふ」などユニークな句が並んでいる。「人間総量」かも知れない。

「十一月集」の戸田和子氏の「バオバブの孤高千年月あかり」に注目した。アフリカの句はどこか寂しいのだ。

中山皓雪氏の特別作品「秋田竿燈まつり」は二十句連作。祭の様子が巻物を見ているようで楽しい。「竿燈の撓ひて起きる継ぎ竹」・「肩に竿燈ねじれをる足袋の先」など・・

「港」十一月号 主宰は大牧広 師系は能村登四郎で「生きている証を季節への愛情をこめて熱く自在に詠む」を目指す。

この十一月号は創刊二百号記念の特集号でもあった。

主宰の近詠三十八句も「風の蜩」として載っている。特集号だから句数が特に多いのかもしれない。「カゼのチョウ」と読むのだろう。私の電子辞書「広辞苑」には無い。「風の蜩七十路粛とするばかり」・「はるか下を小田急が行く新豆腐」など好きな句。
「秋深みゆくを高層にて知りぬ」が「港」誌の二百号記念句としてこの稿の最終句。

同人作品評を櫂未知子氏が「一万八千食」との題で「食」の句ばかり選んでいる。櫂氏もうなった「梅漬けて軽くきりだす十年後 木内はるえ」の句評では「重い話題をさらりと持ち出す・・」さりげなさがこの句のうまさ・・とか。良い句に的確な評は読んでも楽しい。櫂氏の著作「食の一句」の延長線かも知れない。

「現代俳句を読む」欄では仲寒蝉氏が「港」以外の俳句誌から一句選んでの句評を述べている。以前、佐久での句会でお会いしたが、ここでも活躍されている。
ご本人の「芋虫と同じもの食う午下がり 寒蝉」ユーモアがあって好きな句だ。

「酸漿」十一月号 主宰は阿部ひろし、師系は水原秋櫻子、そして、「自然とのかかわりのなかで人生の哀歓を詠む」が結社のスローガン。

主宰の一句「谷底へさしこむ日あり散紅葉 ひろし」が中表紙にある。主宰の新詠十五句、
「夏から秋へ」が続く。
特に印象に残った三句は「昼が夜へ祭の人の中にをり」・「朝明や白百日紅咲きあふれ」・「星一つなき明るさに小望月」。いずれも時間軸を横に置いて、その時々の自然の美しさと人の営みを詩的に詠う。
同じページの下の欄に「明け暮れ」と称する主宰の小論がある。この中に俳句の競詠について疑問を呈している。人の境涯を句にするのだから、「個人の生き方」を競う必要は無いと云うのだ。同感である。

「酸漿の人々」と云うコーナーで青木彦道氏の自己紹介が面白い。ご近所での防犯パトロールである。アメリカの「割れ窓理論」(割れたままの窓は犯罪が増やす)もあり、楽しい。
「年番の氏神掃除年暮るる 彦道」

「門」十二月号 鈴木鷹夫主宰、師系は波郷・登四郎
「俳と詩の融合」をめざしている。

主宰の「玉子酒ごときに使う伊万里焼」表紙の裏にある。朝鮮から伝来した色鮮やかな高級焼物と生活に密着した玉子酒とのギャップが「ごとき」を介して絶妙な間合い。

また主宰近詠十五句「無門抄」から「まじまじと見て考へて茸採る」・「海へ出て芒の風でなくなりぬ」・「東京の足立区ここも鯊日和」なども併せて「俳と詩の融合」を感じる。

主宰の「贈・脇句」が面白い。会員作品を発句に見立てて脇句七七を主宰が付けている。連句の手法である。たとえば、

「田の神の植田見回る風らしき 佐藤忘八」に対して「畦に涼しく幣そよぎける 主宰」で句意を広げている。他にも、「鉦叩打ち休むとき動くらし 藤本道代」に対しては「頁めくれば鞍馬火祭  主宰」と付け合っている。これが三十二句もあった。面白い試みだ。そして、「近頃の難解句には脇が付けられない。したがって発句(俳句)でないのだ」とバッサリ。

門燈集より「しばらくは轆轤における蝉の殻 野村東央留」「人間の闇と分ちて虫の闇  大隅徳保」「車内にてはや膨らます浮袋 西宮正雄」などから、この俳誌のめざすところを意識させられる。


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