エッセイ:証人喚問で裁判所に立つ
いやな思い出であるが、自分の部下のひとりが、会社から金を横領着服すると言う事態が生じた。
当時、産業の少なかった、タンザニアでは、工場で生産に使う、殆どの部材や設備、そして治工具などは輸入されていた。私の工場でも、現地調達品は木製ラジオキャビネットだけだった。我々は、殆どの電子部材などを日本から輸入していた。しかし、事務用品や大工道具などは、購買部門のマネジャーが必要に応じて町の商店から買った。
品不足が恒常的に起きるので、少しの買い溜めや、適正な値段で購入して、円滑な工場の運営を助ける大切な仕事なので、優秀な人材を当てていた。
部下のMはその仕事の遂行のために会社から仮出金し、町で買い物をし、領収書で精算していた。私が彼の領収書にサインして、工場で必要な品目であることを確認して、彼は経理と精算した。
うかつにも、その領収書がある時期から、改竄されていた事に、全く、気づかずMからの領収書にサインをしていた。品物は正確だったが、書かれた金額が改竄されていた。
領収書の金額、「10」を「100」や「40」に簡単に書き換えられる。外貨の乏しい国への輸入品のため、品不足が頻発しているので、街での売価はいつも激しく上下している。これで、すっかり騙されてしまった。
公的監査で店に残った領収書写の数字と経理にある数字の異なる事が摘発された。目の前に売った店の領収書の写しと並べられ万事休す。
経理より報告を受け、人事と一緒に、本人Mと個別面談。穏便な解決を図ろうとしたが、本人の頑なな拒否が続く。
とうとう、人事が警察へ訴えた。Mは逮捕され、拘束された。
裁判が始まり、上司であり、且つ、領収書にサインしている私も証人として呼ばれ、裁判所の証人台に立つ。英国の裁判所と同じ形態なのか、被告の位置が一番高く、裁判長が真ん中の中位、証人が一番下の位置であった。スワヒリ語を英語に変えてもらっても、意味の不明さは実に不安であった。
結局、Mは重労働八年の有罪となった。そして、その間に死亡したと後で聞いた。彼の妹も工場に働いていいて、彼女が話してくれた。ショックであり、管理不十分の自分の責任を重く感じ、しばらくの間、眠れなかった。
思い出す度に心が痛む。
裁判処理した人事のカマショー(左)と彼の父。カマショーの故郷で撮影