波集より9句

み仏の一指を借りる蜘蛛の糸        蒲谷トシ子

鳶尾草や昔の火消し纏ひたて       小笠原千代子

碧き空より光もろとも神の滝        工藤加代子

闘いを終えて牛の目優しかり         杉下 弘之

笑い合い味を分け合う氷水         松岡美由紀

鉢植えのトマトかたくなに青い       大谷みどり

おつさんの日傘の似合う大手町       相賀むさん

明易の風入れて又眠りけり          朝日  操

曲り角転ばぬ先の煮酒かな         粋 狂 子     

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灘集同人より10句

見渡せば何も変わらぬ昼寝覚       井上美沙子 

海は夏忘れられたる遭難碑        今井美恵子

父に日やひんやりとしたベンチかな    半田味加棒

父の日の凡なる一日暮れにけり      酒向  昭

観覧車てっぺん辺りか盛夏来る       岸   健

花柘榴戦火は遠きものならず         野口 尚子


青き空大地にひまわりの不撓        中嶋  敦

梅雨もよし贔屓チームが勝つ時は      妹川  稔

うすうすと色を重ねて梅雨の嶺       長野 保代

十六歳消えぬ記憶や原爆忌         宮本 恭子

「波」誌2022年10月号の作品より

潮集同人より9句

何もなきことの贅沢青田風        本郷 秀子  

桑の実を食みつつ敵機見しことも     原口 海人

暴挙かな号外染むる大夕焼        中野 淑子 

青嵐竜馬の像は海へ向き         田邉 幸子

冷酒やいのちの根っ子深くなる       加茂 一行

みどり濃きジブリの森や夢工場       石垣みち代

半分はまだ生きてゐる夏落葉       伊藤美也子

一文字が意識に上る秋の風        阿部千恵子
  

しなやかにスマホを滑る指すずし     山下 遊児

「蟿螽(きりぎりす)」より 野におれば親しきものに蟿螽       山田 貴世

「秋声」より       風の声ききに岬へ月もまた       管山 宏子

撮影:霧野萬地郎:アイルランドにて
最果てモハーの断崖(上)と
下は、宿泊施設の「ベッド & ブレックファースト(B&B)」
 

撮影:富山ゆたか:新国立美術館にて