波集より9句
初蝶来とどろきわたる音も無く 工藤加代子
帰るのかい独居の母や呼子鳥 粋 狂 子
辛夷咲く爛漫の白鹿ヶ谷 村上 絢子
春泥の堀に漁船の突き刺さる 大谷みどり
ドス声の大きが勝ちて猫の恋 小笠原千代子
石もたぐ根っこの力山笑う 宮沢 久子
下萌えをつまめば強き根の力 渡辺 洋子
春の宵ぽつんと心余りたる 帆川 透
辛夷蕾まだよまだよとそろひ踏み 新関まつり花
灘集同人より10句
梅一輪主婦たる矜持秘めにけり 亀倉美知子
春の鷹ウクライナの地に平和あれ 山田ツトム
如月の風よ微糖の缶コーヒー 田中 順子
せせらぎの音の高まり芽吹き急 中嶋 敦
暮れ時のこの道が好き沈丁花 星野 朋子
ひと振りの鍬の光や畑打女 永井かほる
桃の花活けて心のふくよかに 井上 玲子
指先を逃ぐる男雛の烏帽子紐 山田せつ子
春寒やひかり失せたる銀フォーク 高橋きよ子
春鳥来口紅つけてみようかな 田原梨絵子
「波」誌2022年5月号の作品より
潮集同人より9句
転勤を明かす主治医や二月尽 濱口たかし
早春の風にきりりと白帆発つ 原口 海人
杉花粉コロナに重ねマスクかな 中野 淑子
若き日の褪せぬ思ひ出桜貝 田邉 幸子
はみ出せる稚の手形春だより 稲吉 豊
菜の花や被災地に盛る土の嵩 石井 眞
古雛の指に緊張解けぬまま 山下 遊児
核の威嚇つくしんぼうが立ち上がる 鎌田紀三男
飛梅がこんな処に社寂ぶ 飯野 深草
撮影:富山ゆたか
「新樹の香」より 夏来たるまたも潮吹く桶の貝 山田 貴世
「夏はじめ」より 雹のごと狂人戦はじめたる 管山 宏子
撮影:霧野萬地郎(アンコールワットにて)