「らいらく」誌 3月号より

 「らいらく」一月号にチュツオーラの『やし酒飲み』について記しましたが、同じ河出書房・池澤夏樹編集の世界文学全集から、バオ・ニンの「戦争の悲しみ」を読んで、これまた、小説の醍醐味を味わいました。作者は北ベトナム兵士として従軍し、ベトナム側から戦争(ベトナムからはアメリカ戦争)を書いています。戦場の臨場感と、兵士心理の描写を通じて、「戦争の悲しみ」を強く訴えています。最近、観光で訪れたハノイの表面からは見えない何かを与えてくれました。この本はベトナムでは発禁処分だったとの事です。
啓蟄や考古学てふ墓暴き

「らいらく」 4月号より

 スポーツ涸れの冬季でオリンピックの報道は湧きあがりました。フィギュアースケートでは、日本代表のリード姉弟や、ロシア代表の川口さん、また、アメリカ代表として長州さんなどの国境を越えた活躍に興味を持ちました。本来は個人の競技であるべき大会が、メダルの数を国家間で競う傾向の中で、これらの代表スケーターは意味深いと思いました。海外で活動する事は、云わば、他人の家で過ごす事です。社会環境の異なる世界に身を投じて目標を目指す彼らが素晴しく思えました。

靖国神社にて
散るや散る靖国桜散り急ぐ
春水を掛け一願の不動尊

「波」誌4月号 編集後記より

 宮崎県で木材利用の研究をしている農学博士から木造建築の利点を聴きました。資源を掘り尽している石化建材と異なり、太陽エネルギーと水で育つ木材は再生可能であり、また、炭素を封入してしまうので、CO2削減にも大いに役立つと云うものです。生きる環境にもすばらしい居住効果を出すようです。生まれたばかりのネズミでの実験ですが、木箱で過ごすねずみの生後6カ月の生存率は、鉄やコンクリ箱のそれに比べて五倍以上高いとの事でした。この講演を聴いて、枯渇する鉱物資源の利用から、伐採ではなく、植林などの計画をもって森林と付き合う、そんな時期が来ていると思いました。

西郷と団体写真あたたかや

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雪墜る釈迦堂の裏虚ろなり
春寒しみな中年の似顔絵師
芹摘むや刑場ありし谷戸の奥
江ノ電のことことことこと古都の春
春めくや女のシャドウボクシング
春荒れて歩道を走る缶空缶
句集「縞馬」日本のサファリ<2010年―3>
回春院の三椏