句集「縞馬」:日本のサファリ<平成19年―5>上田市
四月、五月と気候が良くなり、旅心を誘う。そして、この頃には幾つかの旅行が日程表に挙がる。
先ずは、長野県の上田へ日帰り旅行。地元句友の案内で好天の下に、波の主宰を囲んでの盛り沢山の旅だった。
奈良時代の信濃国分僧寺・尼寺の跡、安政の国分寺、上田城址、無言館、前山寺、安楽寺、別所温泉、北向観音などを貸切のマイクロバスで手際よく廻る。
上田市は鎌倉市と鎌倉街道で結ばれ、鎌倉時代には幕府守護職も置かれ、信州の鎌倉とも呼ばれる。
国宝の三重塔を有する安楽寺は開山の惟仙(いせん:留学僧)が建長寺開山の蘭渓道隆と同船で帰朝した縁など興味ある関係が楽しい。
今回の旅では、この塔を訪ねたことが最大の収獲だった。山腹に重厚なたたずまいに建つ、こんな八角の塔の形は日本では他に知らない。
無言館は東京美術学校の戦没卒業生の作品だけの美術館。大正初めの生年月日の画学生が多く、同世代の亡父と思い重なる。

満天星や国分尼寺の築地址
ゆく春や縄文やじりの透明度
こくぶんにじ
<信濃国分僧寺の講堂遺構>

雛吊るす銃眼のある城櫓
花は葉へノーベル賞の掛け違い
上田城址内の資料館によれば、世界最初の人工ガンでノーベル賞の候補にも挙がった明治の山極勝三郎博士もこの上田出身。興味深い話があったのを知る。
花散るやコンクリに吊る剥げた画布
画歴なく散りし画才や四月尽
無言館を出でても無口遅桜
不条理の重さ落花の無言館
<無言館>

枝垂れ桜の前山寺には未完の三重塔が重要文化財となっている。クルミぼた餅も珍しかった。
重文は未完の塔や山笑う
黄塵や唐様八角塔は三重
みえ
昏れなずむ上田盆地や花林檎
残雪をとどめ浅間の坐す車窓
手打ち蕎麦を食べた北国街道・柳町や別所温泉も風趣豊かな佇まいだ。
信濃電鉄に乗り込む頃から句作に皆無口になり、帰りの新幹線では浅間山を車窓に見ながら嘱目10句の詠み合わせで最後まで充実の旅でした。
<安楽寺の国宝唐様八角三重塔>