波7月号<ロンドン>
朝食はゆるりたっぷり弱冷房 似て非なるクィーンズ英語汗ばみぬ
片陰のビルごと曲がるストリート 日盛やロンドン下町珈琲店
晩涼やガス燈点るパブの街 ジョンブルの口髭ビールの泡ゆれる
夏夕べ印度料理へ足延ばす
(ロンドン下町)
波8・9月号<英国、バークシャーにて>
青垣やジャガーぶっ飛ぶ狭き道 三人はニッカボッカー芝青し
遠雷や石器時原人の住みし跡 秋近し自家焙煎のハーブティー
見晴るかすヒースの丘や秋の虹 白着るや無音稼働の新設備
麦秋や工場は小さき煉瓦建
波10月号<ベルサイユにて>
王庭は左右対称鳥渡る 秋うらら太陽王はバレエ好き
天高し朕は国家のベルサイユ
秋日濃き鏡回廊シャンデリア
王族は断頭台へ露の玉
露けしや椅子に王妃のMとA
うそ寒し自ら冠るナポレオン
(新凱旋門より巴里の街)
波11月号<巴里にて>
画架多きモンマルトや秋日和 モナリザの笑みはいつまで秋思ふと
髭の濃き焼栗売りやシャンゼリゼ 凱旋門を旋る冷まじ六車線
ベトナムを離れ幾年木の葉髪 秋天へエッフェル塔の双曲線
身に沁むや牢獄塔を一巡す
(冬のストックホルムとクリスマス聖歌隊)
波12月号<ストックホルムにて>
波12月号<ストックホルムにて>
雪激しダイナマイトで道拓く チェーン鳴らし車灯列なす雪の朝
燭台を手に処女たちの聖歌隊 冬至日の口をすぼめる会議室
街灯も賑わう昼の十二月 降りしきる雪は闇より街灯下
衛兵の動かぬ目線雪催い