<地震の夕・千葉 桂子(松島)>

 

春雪やメールとどきし地震の夕

ほとほととくれゆく地震の春夜かな

被災地にしのばす念珠朝霞

春霞余震の中の弔辞かな

被災地を行く春風と少し行く

地震あとの段差ありけり竹の秋

原発を離るる友や三月尽

初ざくら地震にこけしを横たえぬ

散るさくら瓦礫の山を覆うごと

津波にもふれる法話や夏近し

余震にもかすかに応うシクラメン

大津波ひとつが大き牡丹かな

夏霞地震あとの街いかにせん

亡き友よ舞うにはよろし今朝の夏

またひとりふえし四月の仏かな

葉ざくらや寂しさ強くなるばかり

津波あと祈りとも見ゆ葱坊主

老鶯のこえ被災地の海に満つ

葉ざくらや賑わいしばし離れたる

多佳子忌や気付かぬ地震に鈴ゆらり

 <地震難民・遠山 典子(松島)>

 

大津波島々楯に椿咲く

蒲公英や地震の難民列なして

見えぬものに怯えて春の月仰ぐ

金婚を控えて春の大地震

救援のヘリの往き来や畦青む

寄り添うて寝るも余震の春炬燵

卒業をあしたに控え大地震

春雪や人智及ばぬ大津波

ガソリンを求む車列や鳥帰る

囀りや津波のがれし五大堂

給水へ子供も並ぶ春休み

千年の法窟崩る彼岸前

瓦礫山連ねて国府桜咲く

大津波果てたる街へ柳絮とぶ

花冷や転びしままの比翼塚

グランドに置かるる瓦礫花は葉に

余震なお夫はひたすら菊植える

代を掻く活断層の真上掻く

朱の橋は「通行禁止」山ざくら

行く末を天に委ねて田を植える

2012年:「波」3月号「東日本大震災一周忌特集」作品>

多くの犠牲者と被害を惹き起した東日本大震災から一年を経ました。

『波』の仲間も様々な形でこれを体験しました。震源地に近い水戸支部の方々の罹災を伺いました。当日の大森教室では主宰も含めて帰宅難民になりました。岩手の大澤幸子さんの経営される「対滝閣」では四カ月に亘って被害された方々の避難場所として利用してもらったとの事です。それぞれに影響を受けた震災でした。今も福島からの原発問題が深刻に尾を引きずっておりますが、世界の人々からの「絆」を強めた一年でもありました。

 潮同人・鈴木八洲彦氏の主宰される宮城の句誌『俳句饗宴』は昨年七月号で「東日本大震災特集」を組み、大きな反響を呼びました。一周忌を迎え、ようやく復興の道程へ入った宮城支部の皆さまに東日本大震災一周忌の企画をお願いしました。『俳句饗宴』に重複する所もありますが、鈴木八洲彦氏にお赦しを得て、支部(鈴木朱鷺女支部長)と連携してこの特集を組みました。 

『波』誌に掲載された、俳句だけですが、ここネットに紹介いたします。(編集部)

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牡丹や声上げ笑うひとなりき         同

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もう聴けぬあなたのソプラノ春いづこ   鈴木朱鷺女

 <柿若葉・今井 勝正(松島)>

 

「津波来る!」声が声呼ぶ春岬

春疾風山路ゆく子はどのあたり

木苺の花を明かりに辿る径

被災地のひとびと如何に春霰

春雷や在所離るる人の列

地震のことなど知らぬ気に犬ふぐり

絶望を言うことなかれ土筆和

地震あとの酒は干鱈で済ましたる

「震度当て」ごっこなどして春炬燵

井戸水の澄むいとまなき彼岸かな

地震熄みてシラウマ疼く朧かな

ヒヤシンスまた地震の来る予感して

卓の灯に浮かぶ菫の怯えかな

木瓜咲けり幼の柩悼むかに

椿散り敷くぞいたまし人ぞなお

白木蓮の満ちて鎮魂歌の聞ゆ

漆黒の花台に散るや白牡丹

息絶えし邑の隅なる葦牙(あしかび)よ

鈴蘭は静寂が好き風が好き

柿若葉再起決めたる眼澄み

 <菜の花明り・橋さたよ(松島)>

 

料峭や覚めて宵とも夜明けとも

人も家(や)も攫いし波や冴え返る

師の来訪に感謝の涙黄梅咲く

仲春やランタンひとつ地震の夜

三月の海見る婆の拳かな

給水待つ長蛇の列に風花す

灯すまで仏とふたり三月尽

被災地も菜の花明りとなりにけり

震災に生き残りたる春の星

子雀のちらばっている瓦礫山

廃校の今は避難所さくら咲く

亀鳴くや廃車の山の崩れそう

夜半の春地震の夢に寝(い)ねがたき

避難所にリュック並んで夏に入る

夕薄暑屋根に破れ船ありにけり

瓦礫より黒猫の来て南風

運動場は残骸の山夏兆す

青年はコップ見つけて汗拭う

やっと揚ぐ被災の浜の初煙

六月の闇より田水匂いけり

棗にがし瓦礫遠見の顔も昏        鈴木八洲彦

埋めつくす固き水流蝶まろぶ          同    

わが息のかかるところに花の房         同     

鎮もりし河のさざなみ聖五月          同

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地異あとの川の逆流真砂女の忌                 小泉 潤

 <蛇穴を出て・相澤良太郎(大崎)

 

佐保姫のおどろかれぬる大地震

落ちそうなブロック塀よ雀の子

震災や春夕焼けの怖くなる

ストーブは唯一灯火となりにけり

発電の音轟轟と春の闇

竜天に登る三陸大津波

名処の橋消えていし目借時

亀鳴くや廃校に避難人あふる

師の訪問受けて万感春深む

入彼岸彼の時刻(とき)止まる掛時計

蛇穴を出て残骸を縫うてゆく

春愁や被災の海より目をそらす

二十日経て貰い風呂する日永かな

弥生尽震災離職となりにけり

ゆく春や捜索隊の列長き

浜人を案じて八十八夜かな

夏来る「越波注意」の看板も

南風吹くやプルトニウムは見えぬもの

卯の花腐し屋根のシートはなおブルー

鴉の子遊ぶ地割れの水溜り

 <黄水仙・阿部 竹子(仙台)

 

「潮臭い逃げろ」三月十一日

「津波来」と手巻きラジオの声おぼろ

余震なほごろ寝の足裏懐炉貼る

炊き出しの煙のまつはる梅一樹

地震が断つ入院予約春寒し

貰い湯の地震遣り過ごす入彼岸

給水の列の長さよ鳥帰る

避難所に友の無事あり濃紅梅

春暁の腓返りや余震過ぐ

蛇穴を出でて「十キロ避難地区」

掌に砕く津波のあとの春の土

皇后は享く被災地の黄水仙

ぶら下がる春灯の紐震度三

囀や仮設住居の鍵を受く

チューリップ学年ごとの遺影並む

被災地へ綿飴屋来て桜かな

復興の防塵マスク夏に入る

鯉のぼり百被災地の風に慣れ

老鶯や瓦礫置き場の仮ゲート

牛の頭を撫でて薄暑の防護服