「波」誌8・9月号の作品より
潮集同人から7句
桑の実の背景いつも太郎ゐて 中田多喜子
抱卵や満天の星涼しかり 本郷 秀子
二頭立て駆る乙女馭者薄暑光 荒野 桂子
玉葱を吊す軒端の足らざりき 原口 海人
絵ガラスは受胎告知や聖五月 久保田葵美
夕焼空ガレのランプの明りとも 禿河とし子
名刹の蟇の寂びたる面構へ 田邉 幸子
曇り空で冴えないカムチャツカ港(撮影:霧野萬地郎)
撮影:富山ゆたか
「修羅の西日」より 真向より修羅の西日や最上川 倉橋 羊村
「草の花」より ひねもすの風を離さず秋桜 山田 貴世
「胸の扉」より 胸の扉を大雪渓へ開け放つ 八重樫弘志
「麦の秋」より 胸に聴く遠き汽笛や麦の秋 朝広 純子
灘集同人より9句
きつちりと謝意告げ逝きし妣芒種 半田味加棒
王子稲荷へ「名代久寿餅」薄暑かな 野口 尚子
いまもなほゆやけこやけの戦火めく 松永 順子
土踏まず小さく揃へて昼寝妻 外岡六太郎
塁審を球審が呼ぶ驟雨かな 稲吉 豊
青葉闇狐の洞にふと妖気 井上 玲子
麦秋や男盛りはこれからぞ 山下 遊児
いくさあるな塩竈ざくら揺れやまず 鈴木朱鷺女
身に迫る戦の気配虹薄れ 今井美恵子
波集から8句
冷し酒男の愚痴を四捨五入 関根 曳月
水打ちて夕陽のかけら濡らしけり 塚本 虚舟
抑留を生きて余生の花見かな 塚越やす子
一村を統ぶる高さや五月鯉 坂本きみよ
緑陰の風を押し引き太極拳 中島 敦
万緑や九十二歳かろく生く 加藤 澄子
野放図にむせ返らせて百合気儘 春本 幸洋
墓石の隅に口空く蟻地獄 坂本 弘道